林道ツーリングに行くときは、ホンダXR230を使っている。
3月のそろそろ暖かくなりはじめた頃、林道の下見に夫婦で行くことになった。本格的な林道コースはまだ積雪で走れない。そんな春先の時期は、千葉方面の林道に行くと相場は決まっているのだが、今年は少し違うところを・・・ということで伊豆半島の入り口、真鶴あたりの林道を走ってみることにした。
冬の間眠っていた埃だらけのバイクを引っ張り出す。エンジンは始動したが前後のタイヤがボロボロでツルツルである。お客さんの車両なら、ぜったい交換を勧める状態だ。しかし、ここで魔がさす。夫婦でゆっくり道を探すだけだし、真鶴は厳しい山の中ではなく丘のようなところだから大丈夫だろうと気を抜いた。この判断を今では非常に悔いている。
林道に入ってすぐ、時間にして5分も経たないところで坂の上のT字路に出会う。左右どちらが本道かと見極めるために、先導していた女房がストップ。俺もすぐ後ろで止まった。
その時、ブレーキレバーを握っているのに、まるでブレーキが無くなったかのようにXR230は坂をバックで5~6m滑り降りた。まるで氷上のように滑る。左に倒れ、不運なことにそこに大きな石があって左の脇腹をヒット。アバラに激痛が走った。息ができない。挟まれた左足を引き抜くこともできない。倒れたバイクから流れ出るガソリンが気になり、燃料コックを止めるのが精いっぱい。ただそこに横たわり、女房が気付いて戻ってきてくれるのを待つ。
この日の4日前、珍しいことに伊豆半島に雪が降り、側道は白くなっていた。転げ落ちた坂道には落ち葉が積もっていて、その下が凍っているのが分からなかった。その上、タイヤはツルツル。止まらないのも無理はないのだ。
これからスタートという林道の入り口なのに、気持ち悪くなるほど脇腹が痛む。さらに追い打ちをかけたのは、漂いはじめた花粉が引き起こすクシャミの連続。気絶しそうな激痛が何度も襲う。「ほら、綺麗な相模湾を見て!」と言われても、俺には海を眺める余裕はない。
競技に出場した時の怪我は何度もあるが、街中では半世紀バイクに乗り続けて立ちゴケもしたことが無いのが自慢であったが、雪道の林道とツルツルタイヤにしてやられた。トライアルタイヤを履いている女房は、多少の雪でもトコトコ走っていた。そのあとを追う俺のXR230は、フラフラしながらぜんぜん進めない。タイヤの差がいかに大きいかを思い知らされた。
始めて林道で転んだのは3年前の栗原川林道。その時打った左肩はいまだに朝晩痛む。いやはや、今回の左肋骨折れでまた痛むところが増えてしまった。タイヤが新しくても今回の転倒は防げたかどうかは分からない。分かることは、初心者でもベテランでも「気の緩み」が思わぬ事故の原因になるということだ。まさかあんな丘のような坂道で怪我するとは、夢にも思わなかったから。