宙を舞ったHonda DAX70 とラガーマン

世話になっている先輩の自転車屋さんは面倒見の良い人で、学校帰りの高校生男女が店の中や前の歩道でジュースを片手にワイワイ集まる溜まり場になっていた。

ある定休日、店を開けて仕事をしていると次から次へとお客さんが来てしまうというので、ガレージの車を出し、シャッターを閉めた中で仕事をしていた。その日の仕事は、ホンダDAX70のフロントタイヤ交換。俺は、スピードメーターが動かないので診て欲しいと頼まれてガレージに行った。せっかく閉めたシャッターの効果は無く、中にはいつもの様に騒がしい高校生たちが集まっていた。

前輪を外された車両は、センタースタンドで立ってた。そのシートに体格の良い高校生が座っていた。彼は高校のラクビー部のフォワード(スクラムを組んだ時に前列の真ん中で踏ん張る一番力のある選手)である。体重は、優に100㎏を超えている。ちいさなDAXが、さらに小さく見えるほどの巨漢だ。

自転車屋さんは、DAX70の前方横に座って作業をしていた。ラグビー少年はフロントタイヤの無い車両のエンジンをかけ、前傾姿勢で1速ブーン、2速ブーンブーン、そして3速ブーンブーンブーンとアクセルを開けて遊んでいた。自転車屋さんが「うるさいから止めてくれ!」と叫んだその時、エンジンをフル回転させていた後輪が地面に着いた。少年の体が起きあがって車両の後ろに荷重が傾いたからだ。後輪接地と同時に、まるでロケットのような勢いでDAX70は前方に発射された。同時にラグビー少年の体は宙に舞い、完全にでんぐり返って逆さまの状態で閉まったシャターに叩きつけられた。

幸いラグビーで鍛えた躰は壊れなかったが、もろくもガレージのシャターとDAX70のフロントフォークは曲がってしまった。修理代金を高校生からとるわけにもいかず、暇なときに店に手伝いに来ればよいと話を付けたのだが、彼は全くのメカ音痴だったことが判明する。「ラジペン持ってきてくれ」と言えば、「えぇ・・・ラジペン・・ペンチの先にラジオが付いている工具なんてあるんすか?」というレベル。こんな具合では使いようがない。ついに修理代金が回収されることはなかった。

ガレージのシャッター目がけてふっとんだかわいらしいDAX70と、いかついラガーマンが逆さまになって飛ぶ姿は、生涯のうちでもっとも滑稽な景色である。YouTubeがあったら、何万ヒットかしたことだろう。「ダックス」というと、まず思い出す笑える事故である。

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